改めて言うまでもなく、社員個人と会社との力関係は歴然としています。ですから、同じ条件で正面からぶつかりあったら、なかなか勝てるものではありません。

長期に渡る闘いの末に、社員の側が勝つこともないとは言えませんが、勝ち取った成果と、それまでの間に要した「時間」「費用」「労力」を考えると、本当の意味で「勝った」といえるケースは、かなり少ないだろうと思います。

弱い社員が会社に闘いを挑み、実質的な意味での勝利を勝ち取る方法は、「奇襲と短期決戦」以外にありません。

相手が予測していないときにいきなり攻撃をしかけ、相手が体制を立て直す前に勝敗を決してしまうことです。

 

 

例えば、不払いの時間外手当を要求する場合

不払いの残業代を請求する場合、実際に残業をした証拠、残業の指示があったか残業せざるを得ない量の仕事を割り振られたり、残業前提で業務のスケジュールが組まれていたことの証拠を用意する必要があります。

時間外手当の申請が必要な場合には、上司が恫喝的な言動で申請しないように圧力をかけていることの証拠も含め、十分に収集することがまず第一です。

ただ、この証拠収集の段階では、相手に警戒心を抱かせないことが肝心です。

相手が高圧的に出てきたら、すぐに「恐れ入りました」と引き下がりましょう。ポケットの中のICレコーダーがちゃんと回っていれば、それでOKです。

 

どこに出しても負けないぐらいの証拠が集まったら、いよいよ戦闘開始です。

会社の規模や組織によって、どこを最初の攻撃地点とするかを定めます。小さな会社では社長ということもあるでしょうし、ある程度の規模の会社であれば、人事部長、あるいは人事部の担当役員が最初のターゲットになるかも知れません。これはケースバイケースです。

ここでは、あなたは中規模企業の支店勤務、支店長がパワハラ男で時間外手当の請求を許さず、あなたは毎日4~5時間のサービス残業をさせられているとしましょう。

証拠を十分確保したあなたは、支店長には一切告げずに、本社の人事担当役員あてに、いきなり内容証明郵便を出します。

自分がサービス残業を強いられている事実、時間外手当請求をしないよう強要した支店長の言葉、それらを並べた上で、「不払いの時間外手当は過去2年間で合計200万円を下らない。ついては、本状到達後1週間以内に全額を支払え」と続けます。

「期日までに支払がない場合には、賃金の不払い事案としてただちに労働基準監督署に申告し、その他法的手段をとる」と結んでおけばいいでしょう。

尚、この段階では、録音証拠やタイムカードコピーを押さえていることは、書く必要はありません・・・というか、書かないで下さい。

 

内容証明が届くだろう日、あなたは普段通りに出社してその時を待ちます。期待と緊張感で、胸がドキドキすると思います。

 

やがて、人事部から支店長に電話が入ります。人事部としばらくやり取りした支店長は、「おい、○○!!」とあなたを呼びつけて、「てめぇ、どういうつもりだ。文句があったら直接俺に言えばいいだろうがっ。この腐れ野郎!」などと罵倒するかも知れません。

当然、全部録音して下さいね。

支店長のアタマから湯気が上がっていても、あなたは落ち着いて、「これについては、人事部長とお話しします。支店長と直接お話をすることはありません」とでも返しておきましょう。

 

多分、支店長は自分に都合の良い報告を人事部長にするでしょうし、人事部長としてはそれを全部信じるかはともかく、「証拠がないなら突っぱねるか」と考え、あなたに対し、「支店長から聞き取りをしたが、そんな事実は確認できない。よって支払いは出来ない」と通知してくると思います。

ここで初めて、「では、タイムカードのコピーと支店長発言の録音を持って、これから労基署に行ってきます。人事部長に訴えても、ろくに調査もせず、そのような対応をされたことも報告してきます」と、証拠の存在を伝えればいいでしょう。

 

こうなると、人事部長としては、自分自身の責任問題になりますので、とにかくあなたを思い留まらせようと、「その前に一度、君と話し合いの場を持ちたい」と言ってくるはずです。

こうなったら、日にちを置かず、その日か、遅くとも翌日には面談を要求することです。

人事部長が「今日明日では都合が悪いから、来週にでも」と言ったら、「そんなに待てません。すぐにお話しできないなら、これから労基署に行くことにします」と返せばいいです。

会社側に考える時間を与えてはいけません。対策を練る十分な時間を与えたら、せっかくの有利な形勢が逆転してしまいます。

 

その後の交渉でも、会社から「検討のための時間をくれ」と言われても、安易に同意しないで下さい。

「残業をした証拠は明らかでしょう。残業しなければ到底終わらない業務量を与えられていることも全部証拠がある。これで何を検討するんですか?『払う』という以外の結論があるんですか?」

「時間外手当の請求をするなと、支店長が恫喝している証拠もある。これ、脅迫ですよ。当然に払うべき賃金を、脅して払わないようにした訳だから恐喝になるのかな。人事部長はこれを隠ぺいするつもりですか。では、もうお話合いは無意味ですね」

というように、相手に時間を与えずに攻め続けます。

 

こういう強気の攻めが出来るかどうかは、とにかく「証拠の収集」にかかっています。

 

奇襲は、思いつきでやるものではなく、事前の十分な準備の上でこそ威力を発揮することを忘れないで下さい。