録音を始めると、「せっかく録音しているから、相手に暴言を吐かせたい」、という気持ちになるものですが、普段と同じように自然体で振る舞うことが重要です。

録音に、後日証拠としての価値を持たせるために、まず避けねばならないのが挑発です。録音は、第三者が聞いたときにあなたに同情したくなり、会社や上司を厳しく処断したくなるような中身に仕上げなければなりません。

あなたは弱者で苛められている、相手は抵抗の手段のない弱者を嵩にかかって責め立てている、というような印象のものを作れればベストです。

 

挑発は、最も避けるべきことです。警察官がパワハラで上司を訴えた裁判では、かなりの失言を録音で押さえていたにも係らず、「録音者が相手をことさら挑発した結果」の発言であるから本意ではない、とされ、有力な証拠にならなかった例もありますので要注意です。

 

録音者が甲高い声で、
「この会社では残業代は払わないってことですね、部長!」
などと感情的に迫り、
部長が
「ああ、そうだよ!」
と答えたとします。

あなたは、「しめた、決定的な発言だ」と思うかもしれませんが、実際には「残業代を払わない:ということを発言しているのはあなたであり、相手は追認しているだけです。

このように、こちらが事先に事実を述べ、相手にこれを追認させる質問形式を「誘導尋問」と言いますが、裁判の場では証拠価値が下がってしまいます。

 

証拠収集の段階では、相手と対峙するとき、ことさら法律を「労働基準法○○条では・・・」とか、「判例では・・・」とかいう言い方も、避けた方がいいでしょう。これは証拠を集めた後で、実際に相手と対峙するまでとっておきましょう

 

こういう場合は、次のようなやりとりにすることが大事です。

(あなた)「この日は、夕方5時近くなってから、部長にどうしても今日中に完成させろ、と言われて資料を作成したんですよ。それで22時までかかったので時間外手当を申請させて頂けないかと・・・・」

(部長)「うるさい。その程度のことで、いちいち残業代など払ってられるか。ウチでは、そういう残業代は払ってないんだよ。嫌なら、残業代が出る会社に転職しろや!」

この会話では、前フリの、「この日は・・・部長に今日中と言われたので・・・・」の部分ではこちらから事実を提示していますが(これは構わない)、肝心の「残業代を払わない」ということは、相手側から言わせていますよね。これが大事です。

また、相手が感情的になっても、こちらは冷静に、といっても、慇懃無礼にならないように、あくまで下手に出つつ、会話をすることも大事です。さっきの会話に続けるなら

(あなた)「しかし・・・・、私だけでなく、みんな遅くまで残業をしていますし・・・。監督署の立ち入りでサービス残業がバレたら・・・・」

(部長)「監督署がなんだ。ウチはタイムカードやめて出勤簿にしてるから、証拠なんか残んないんだよ。お前、監督署にチクろうとか、馬鹿なこと考えるんじゃないぞ。そんな真似すれば、ヒラに降格して、一生飼い殺しになるんだからな」

(あなた)「いえ、そんなことするつもりはありません」

(部長)「だったら下らないこと言ってないで、さっさと仕事に戻れ。お前と同期の鈴木なんか、お前より毎日遅くまで仕事してるけど、残業代がどうたら、言ったこと無いぞ」

ここまで言わせれば、あなたはこの日は、「ははぁー」とひれ伏して退却して構いません。

同じ日にとことんやるのではなく、このような「短い打ち合い」を、何度も繰り返して証拠を積み重ねていくのが賢い方法です。ある程度の期間で、複数の日にまたがって同じような発言をしている証拠を取れば、「その日に限り、つい感情的になり、『心にもないこと』を口走ったのです」というような言い訳がきかなくなるからです。