パワハラや違法行為の強要など、会社の加害的行為でうつ病等の精神疾患を発症した場合、労災保険から給付される以外に会社に直接損害賠償の請求ができることは他の記事で述べました。

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それでは、具体的にどんな請求が可能なのでしょうか。

会社に損害賠償請求をする場合、請求できる損害の種類は、大きく分けて「積極損害」「消極損害」「慰謝料の」3つです。

 

会社に賠償請求できる”積極損害”とは

積極損害とは、こちらが支出をさせられたことによる損害です。最も顕著なのが「治療費」ですが、その他に「入院雑費」や「通院交通費」がこれにあたります。

「治療費」は、労災適用となっている場合は、原則労災保険から全額支払われて本人負担は発生しないので、損害額はゼロになります。

「入院雑費」は、入院した場合にかかる種々の雑費です。通信費(電話代等),文化費(新聞代,テレビカード代等)等,入院したことで余分に生じた諸々の生活費用のことです。実際にかかった全入院雑費を集計して必要性・相当性を個別に判断するのは煩雑なので、賠償実務では定額化する運用が行われています。1日あたり1,100円~1,500円として、入院した日数を掛けて算出します。1ヶ月(30日)入院した場合、日額1,100円とすれば、33,000円、日額1,500円とすれば45,000円となります。

「通院交通費」は、文字通り通院にかかる費用で、通常公共交通機関の料金で算出します。特段の理由が無ければ(公共交通機関が存在せず自家用車も使用できない、身体状況から公共交通機関を利用しての通院が困難といった理由がなければ)タクシー代は認められません。尚、自家用車使用の場合は燃料費ということになりますが、これも計算が面倒なので、自賠責保険実務などでは1kmあたり15円と定額化して計算しています。

 

会社に賠償請求できる”消極損害”とは

消極損害とは、本来入るはずだった収入が入ってこなかったという損害です。休業損害とか逸失利益と呼ばれるものです。

労災適用の場合、休業補償として月例賃金の80%にあたる金額が労災保険から給付されますが、本来仕事をしていれば100%を貰えた訳ですから、差額の20%分が請求可能な金額となります。(注)

単純に額面で考えて構いません。労災の休業補償給付は非課税、損害賠償金も非課税で税金はかかりません。そのため、労災の80%、加害者からの20%を受け取ると普通に働いて賃金として支払を受ける場合に比べて手取りが増えてしまうという事情はあるのですが、賠償実務では所得税については考慮しないのが通常です。

それから、忘れてはならないのが「賞与」です。労災保険では賞与は全く支給されませんので、休業したことで賞与が減額されたり不支給となった場合はこの分も消極損害として請求することが出来ます。

(注)休業に対して労災保険で給付される80%の内訳は、60%が「休業補償給付」で、残り20%は「特別支給金」と言われるものです。特別支給金については、「被災労働者の福祉の増進を図るためのものであり、損害の補てんではないので、損害賠償金から控除すべきでない」という最高裁の判例があります(コック食品事件 平成8年2月23日最高裁第二小法廷)。この考えに従えば、給与の20%ではなく、40%を会社に請求できることになります。例えば、あなたの月給が30万円で、労災保険から24万円の支払いを受けていても、会社に請求できる差額は6万円でなく、12万円ということになります。

 

会社に賠償請求できる”慰謝料”とは

慰謝料とは、うつ病を発症したことによる精神的・肉体的苦痛に関する損害です。本来金銭にできないものを無理やり金銭に見積もるのですから、何らかの基準が必要になります。

交通事故の賠償金算定事務を効率的に行うため、保険会社や弁護士会で慰謝料の基準を作成していますが、これを交通事故以外にも流用するケースが多いです。ちなみに、弁護士会が基準を作成する過程では裁判官との意見交換も行われており、弁護士会の基準は概ね裁判基準だと考えて良いと思います。

弁護士会の基準としては、東京三弁護士会交通事故処理委員会及び財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部共編の「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」という書籍(赤い表紙なので「赤本」という通称で呼ばれています)、財団法人日弁連交通事故相談センター発行「交通事故損害賠償額算定基準」(こちらは青い表紙なので「青本」です)が代表的なもので、治癒するまでに要した入通院期間をベースに、基準を当てはめます。

ここでは、スペースその他の関係で表そのものを掲載することはしませんが、「慰謝料 弁護士会」とか「慰謝料 赤本」で検索するといくつも見つけられますので、ご覧になってみて下さい。

ちなみに、治癒まで入院1ヶ月・通院1ヶ月を要した場合、赤本の慰謝料基準「別表Ⅱ」(他覚所見のない鞭打ち損傷等に使う基準。うつ病の場合はこちらが妥当でしょうか)をあてはめると、慰謝料は52万円ということになります。

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