労災の適用については、「業務に起因する傷害かどうか」が判断の基準となり、「労働者に過失があったかどうか」は基本的に問題にはなりません(故意や故意に近いような重過失の場合を除く)。

労働者がやってしまった業務上のミスが、重過失には至らない「通常の過失」の範囲にとどまるものであっても、そこから引き起こされる被害が甚大な場合に「重大なミス」と表現されることがありますが、これは労災保険の給付制限を受ける「重過失」とは根本的に違います。

業務で自動車を運転中に死亡事故を起こしてしまったケースとか、駅で電車待ちの間に個人情報の入ったパソコンを置き引きされ、結果大量の個人情報が流出したようなケースを考えてみましょう。

誰もが起こしてしまう可能性のあるミスですが、事故の内容によっては、会社の名前が大きく報道され、会社じたいもダメージを受け、多くの役員や上司、同僚が対応に追われるようなケースもあります。

もしあなたがこのような大事故の張本人となったら、多分、普通の精神状態ではいられないでしょう。ストレスで食事も摂れず、睡眠も取れず、混乱の極致に陥ると思います。もっとも、巻き込まれた周囲の人にしてみれば、「自分で招いたことだから当然だろ」と思うかも知れません。「会社を辞めて責任を取れ」というような無言の圧力を感じることもあるでしょう。

 

ですが、こういったケースで、ミスをした張本人が精神を病んだ場合も、労災の対象になり得ます。

厚生労働省の「精神障害の労災認定」を見てみましょう

厚生労働省 精神障害の労災認定

 

これによれば、例えば3の「業務に関連し重大事故を起こした」とか、4の「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをし、事後対応にもあたった」というのがあります。

巻き込まれた会社や同僚にしてみれば「自業自得だろ。こっちも気が狂いそうだわ」と言いたいところでしょうが、こういうケースでミスをした社員が精神疾患になったとして労災申請をした場合、事態が重大であればあるほど、労災認定がされやすくなります。

そして、いったん労災認定がされてしまうと、しばらくの間は社員の地位を確保しつつ、労災保険の休業補償も受けられることになります。

労働基準法19条1項本文で「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間・・・は、解雇してはならない」と定めているため、労災で休業している期間とその後30日間は、原則として解雇は許されないのです。

 

不道徳な考えかも知れませんが、不幸にも自分のミスで重大な事態を招き、それが原因で精神に支障をきたした場合には、会社や周辺が「責任をとって退職せよ」というプレッシャーをかけてくる前に、精神疾患になったとして労災申請をしてしまうのも自分の身を守るひとつの方法です。認定されれば、会社員としての地位が保証され、休業補償も受けられるのです。

 

このようなケースで大方のサラリーマンが取る行動は、「責任を取って辞職致します」というものでしょう。それが潔い態度だと考えるのが日本人です。

自分の身を守るために労災申請という「潔くない悪あがき」をすることについて、非難する人もいるでしょう。

 

でも、確かにあなたは自分のミスによって会社に、同僚に、そして社会に迷惑をかけたかも知れませんが、人間である以上、誰でもミスを犯す可能性はあるのです。あなたを非難している同僚が、明日は同じミスを犯さない保証はありません。

そして、あなたには守るべき家族があることを思い出して下さい。あなたがミスを犯したからといって、家族全員が路頭に迷い、将来の夢も絶たれ、飢え死にしなければならないのでしょうか。

たとえ周辺からどんな非難を浴びようとも、あなたは会社員の地位を守り、当面の現金収入を確保し、家族の生活を守り、再起する足掛かりを作らなければなりません。

社会に対する責任も大事ですが、そればかりを考えて、自分の家族に対する責任、あなたを頼りにしている配偶者や子供に対する責任を忘れてはなりません。

世間から卑怯者となじられようと、家族を守るために労災という制度が利用できるなら、それをとことん、しゃぶり尽くすまで利用する。あなたにはそういう強かなサラリーマンであって欲しいと思います。

 

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