愛知県の社会保険労務士が、自分のブログで「モンスター社員をうつ病にして追放する方法」などと称する記事を複数掲載して問題になった事件について、遅ればせながら書かせて頂きます。

事件の概要はご存知の方が多いでしょうが、毎日新聞のサイトから以下引用しておきます。

愛知県社会保険労務士会(鬼頭統治会長)は、同会会員の社労士が「社員をうつ病に罹患(りかん)させる方法」などとした文章をブログに記し「社労士の信用、品位を害した」として3年間の会員権停止処分と退会を勧告することを決めた。処分は同会の規定で最も重い懲戒処分という。

 社労士は自身のブログに、社員を「うつ病にして会社から追放」する方法として「バツを与えるべき根拠を就業規則に盛り込みましょう」「モンスター社員に降格減給与えてダメージ与えます。適切な理由でっち上げましょう」「万が一本人が自殺したとしても、うつの原因と死亡の結果の相当因果関係を否定する証拠を作っておくこと」などと記し、11月24日にブログに掲載した。ネット上で批判が相次ぎ、現在ブログは公開されていない(毎日新聞 2015年12月30日(水)7時46分配信)

実は、このブログが閉鎖される直前、僕は会社でネット検索していて、このブログを見つけて内容を読んでいます。何を隠そう、この僕自身がある女性社員を辞めさせたいと考えて、情報収集していたのです。

一応言い訳をさせて頂きますが、当該社員は係長クラスの中間管理職ですが、感情の起伏が激しく、1日の中でも気分がハイからロー、ローからハイと目まぐるしく変わり、機嫌が悪い波が来ると、部下に、いや部下だけでなく周囲の社員に誰彼なくヒステリックにあたり散らすという厄介な女性です。

部下についた社員にとってはまさにパワハラに晒される毎日であり、精神的に追いつめられて何人もが退職しているのです。

この女性社員に注意を与え、指導しようとしても、その辞めた部下の欠点や失敗をあげつらって批判するだけで自らを改めようとしないため、このままでは犠牲者が増えるだけだと判断しました。

パワハラ被害者をこれ以上出さないために、パワハラの元凶をクビにするしかない、と判断した訳です。

僕も、仕事柄、これまで何人かの社員を解雇してきています。ですから、合法的かつ妥当な解雇の手順は良く分かっているつもりです。

しかし、やはり解雇や退職勧奨は気の重い仕事であることは間違いなく、特に法律とは別の部分、どのように話を切り出し、どんな言い回しで解雇理由を説明して相手を納得させるかということになると、絶対の正解というものはありません。

それで、昼休みに、ついつい「問題社員 解雇」などの検索ワードをネットで引いていたのですが、そこにたまたま引っかかってきたのがこのブログです。

そのときはそれきりでしたが、数日後に新聞・テレビでニュースになり、びっくりした次第です。

 さて、僕が実際にこのブログを呼んだときに抱いた感想は、扇情的なタイトルで煽ってはいるものの、内容は総じて幼稚であり、マニュアルとして特段目新しいものはないな、というものでした。

問題行動をする社員について、就業規則に基づいて(就業規則が不備であればそれを整えて)まず譴責等の懲戒処分をし、それで改まらなければ処分のレベルを上げていき、最後は解雇までもっていく、というのは、ごく普通の対処法で、このような内容をサイトに書いている社労士はいくらでもいます。

この社労士が特殊なのは、わざわざ「うつ病に罹患させて」「退職に追い込む」といった、本来不必要なプロセスを挟み込み、それを不穏当かつ下品な表現で並べていることです。なんでそんなプロセスが必要なのでしょうか。

どうも、この社労士にとっての「モンスター社員」は、僕がさっきから言っている問題社員、例えば僕の会社にいる情緒不安定でパワハラ被害を撒き散らす問題社員とは、違う意味のようなのです。

この社労士にとって(この社労士を支持する経営者にとって)の「モンスター社員」とは、「有給休暇を取得しようとしたり」「時間外手当を請求したり」「会社が応じなければ労基署に相談したり」する社員のことを指すみたいなのです。

そうでなければ、「うつ病に罹患させ」というプロセスを挟まなければならない理由が理解できません。

本当に相手が「問題のある社員」であれば、わざわざうつ病にするなどという手間をかける必要はないのです。淡々と手続きを踏めばいいだけです。

社労士の多くは企業側で仕事をしており、その中には会社に法の抜け道を指導するブラック社労士が一定数含まれていることは紛れもない事実です。

しかし、そこは「士業」のはしくれ、経営者と二人きりのときにはかなりきわどい話をしているのかも知れませんが、少なくとも表に見える部分では、法令遵守の建前を述べ、一定の品格は保とうとするのが普通です。

それを、公開しているブログで「うつにする方法」だの「自殺されても因果関係を否定する証拠を用意しろ」だの、ここまではっちゃけてしまう社労士というのはもう何というか・・・・。

当然のことながら問題化して、社労士会も見過ごすことは出来ず、重い処分が課されることとなりましたが、多少の想像力があれば、こうなることは十分予測できたことでしょう。

社労士に限らず、およそ「士業」というものは、ものごとの先を読んでクライアントに助言するのが仕事のはずです。

結局のところ、この社労士自身が、全く危機管理の基本ができていないということを世間に晒したという、笑えないオチでありました。

経営者の多くが、サービス残業を正当化する理由を探したがります(あいつらは結果を出せなかったのだから金を払う必要がない、とか)。

残業させても対価を払わないでよい理屈を教えろと、顧問の社労士に求める経営者もいます。そのためにお前に金を払ってるんだぞ、と言って。

しかし、殺人をどう言い繕っても合法にできないのと同じで、サービス残業を合法にする理屈はありません。

ですから、クライアントに気に入られたいブラック社労士たちは、証拠隠滅の手を教えることになります。

殺人に例えれば、死体の隠し方とかアリバイ工作の仕方を教えるようなものですね。

ですが、小手先の対策を弄したところで、警察が本気で操作すれば殺人の多くが発覚して犯人が逮捕されるのと同じで、サービス残業も隠し通せるものではありません。

あなたがきっちり証拠(録音データなど)を確保していれば、ブラック社労士の考える姑息的な対応策などは、余裕をもって粉砕できるのです。