SMAPメンバーのうち、木村氏を除く4名が独立の動きを見せ、それに伴いSMAPが解散するとされた問題は、結局4名が翻意してジャニーズ事務所に詫びを入れ、現在の所属事務所に残留することで決着するようです。

僕のようなオッサンにとっては、解散だろうが独立だろうがどうでもいいのですが、この事件を「パワハラ」「会社との闘い」そして「転職活動」という視点で見たときどうだろうか、ということは考えさせられました。

 

報道によると、4名が独立を考えるようになったきっかけは、1年ほど前に週刊文春に掲載された、所属事務所の経営者(副社長)のロングインタビュー記事だと言われています。

このインタビューの際に、自分の娘とSMAPのマネージャーI氏との間に後継者争いがあるのではないか、という文春サイドの質問に、副社長がキレたらしいのです。

まぁ、この辺りの経緯は、僕のような「俄か」より、皆さんの方が詳しいでしょうから、詳しく書くことはしません(僕と同じような芸能オンチの人もいると思いますが、「週刊文春 メリー ロングインタビュー」などで検索すればいくらでもヒットしますのでそちらを参照して下さい)。

 

しかし、ヒートアップした副社長がインタビューの場にわざわざI氏を呼びつけ、取材記者という第三者のいる前で、I氏を詰問するなどの行為をしたことは、まさしく、「パワハラ」にあたるのではないでしょうか。

 

SMAPがマネージャーもつけて貰えない不遇の時代に、事務職員だったI氏が見かねてマネージャーを買って出たこと、彼女の努力と才覚によってSMAPがトップアイドルに育ったのは間違いないことのようです。

現在彼らは、グループとしてだけでなく、各メンバーが「ピン」でも多方面で活躍しています。

グループを続けながらグループに埋もれさせず、それぞれの個性をベースにした魅力を引き出し、息の長い活躍をさせることに成功しています。これも、I氏の手腕の賜物でしょう。

その大恩人であり、事務所にも多大な利益をもたらしてきたI氏が「パワハラ」に遭っていること、そして自分たちに向けられた「あの子たちは踊れない」という辛辣な批判に対し、SMAPのメンバーが怒りと反感を持ったことは想像に難くありません。

 

副社長の「踊れない」発言は、会社のトップが自社の主力商品を取り上げて、マスコミのいる前で公然とケチをつけたようなものです。

食品会社の社長が、自社の製品を公然と「美味しくない」と言い放つのと同じです。

これは、その商品を長いこと買い続けてくれている消費者(=ファン)を冒涜するものであり、経営者としては社会常識を逸脱した行為と言わざるを得ないでしょう。

 

ロングセラーの主力商品である自分たち自身、そうなれたことに対するI氏の功績、そしてその収益を長年支えたファン、これらをまとめて否定する経営者の発言をみたとき、4人は「許せない、もうついていけない」と感じたのでしょう。

 

I氏が退社を余儀なくされた際に、彼女について行こうとしたメンバーの心情は、タレントではなくサラリーマンである我々でも、わが身に置き換えて、十分理解ができるものだと思います。

 

 

<感情が先行し、戦略が後回しになったのでは>

 

ただ、彼らがたどった経過を見ていると、会社という強大な相手とケンカするに際して、義憤という感情が先行してしまい、一方で戦略の検討が十分ではなかったように見えます。

独立を申し出たものの、独立後の展望が描けず、結果的に事務所に残ることになったようですが、これは、サラリーマンに置き換えれば、「転職先から確実な内定を貰っていないのに、見切り発車で辞表を叩き付けた」ようなものです。

 

面接での感触が良かったので、採用されるだろうと自分で判断して辞表を出してしまったが、相手の社内事情で採用は取りやめになり、慌てて辞表の撤回を申し出たようなケースを考えれば分りやすいでしょう。

元の会社が撤回を受け入れなければどうしようもありませんし、仮に受け入れて貰えたとしても、その後は相当に肩身の狭い思いをして働くことになってしまいます。

 

SMAPのリーダーは、確か中居氏だったと思いますが、例の5人並んでの謝罪表明を見れば、今後は木村氏が実質的なリーダーとなっていくのは間違いがないように思われます。

 

芸能事務所から独立後、長い間「干された」芸能人は少なくありません。

芸能事務所の側には、「売り出しのために多額のコストをかけたタレントに、そのコストの回収も出来ないうちに独立されたらやっていけない」という理屈があります。

この理屈は、どの芸能事務所にとっても同じことですので、「裏切者」に手を差し伸べる大手事務所はなかなかありません。

 

 

4人のメンバー、そしてI氏も、このあたりのことは、十分に熟知していたはずです。

それなのに、なぜ、今回のようなことになったのか、正直解せないところがあります。

もしかするとI氏は、自身は事務所を退職する決意をしたものの、4人のメンバーを引きつれていくまでのつもりはなかったのかも知れません。

ただ、I氏の辞職の決意を知り、義憤に駆られた4人が、I氏の静止を聞かずに一途になり、結果的に暴走したのかも知れません。

 

彼らがどうしても独立しようと考えたなら、まずは、争いを表に出さず、水面下で決着をつけることが可能であれば、出来る限りそうすべきでした(参考記事:会社との闘いは目立たぬように地味にやる)。

 

「コスト回収前に独立されたらたまらない」という芸能事務所の理屈はそれなりに理解できます。

しかし、SMAPの場合は、活動期間の長さからいって、所属事務所がかけた「初期費用」はとっくに回収し、今は非常に利益率の良い製品になっているはずです。

ですから、独立後の妨害行為をしない条件として、現在の所属事務所に多額の金銭的利益をもたらした上で辞めること、例えば半年かけて全国縦断解散ツアーを実施するなどの方法を提案し、合意する方法が考えられます。

これが、最もスマートで、お互いが傷つかない方法だったろうと思います。

ただ、ビジネスという視点での損得より、自分の感情やメンツが優先する相手だと、交渉のテーブルにつかせることじたいが非常に難しいかもしれません。

 

 

<複数人で会社戦うことの難しさ>

 

彼らが所属事務所の経営者に対して感じた怒りは、サラリーマンの世界に置き換えて考えても、十分に共感できるものです。

ただ、彼らは結局、独立を断念して事務所に残ることになりました。

「会社とのたたかいは独りでやるもの」の記事で書きましたが、敵にグループで立ち向かうことは、1人より心強いようで、実は案外難しいのです。

強い相手と戦うときには、宣戦布告するまでの間は、決して決起するそぶりを見せず、深く静かに潜航して準備を進める必要があります。

1人でやるなら、打合せも必要もありませんし、自分自身さえ十分に注意していれば、リスク管理も容易です。

しかし、これが多人数となった場合、自分は十分に注意していても、他のメンバーの不注意により計画が露見してしまうことがあります。そして、何人かの人間が集まると、その中に必ず、注意力が散漫な人間が含まれるというのが世の常であります。

 

また、「会社とのたたかいは独りでやるもの」で述べたとおり、5人の「温度差」にも、常に気を配らなければなりません。

SMAPのケースでどうだったかは知りませんが、一般に、会社に対して複数の人間が連帯して要求を突き付けてきた場合、会社は彼らを分断することを考えます。

グループの中で、迷いがありそうなメンバーから、個別に接触して切り崩してくるのです。

メンバーがそれぞれが神経質になっていると、何気ない言葉や仕草で、「あいつは寝返るのではないか」という疑心暗鬼に陥ることになります。

人間のキャパシティーは限られているので、そういった面に気を回す結果、本来の敵に対する戦略に向けるパワーが、どうしても削られます。

巨大かつ強かな敵に挑むには、闘いの展開を何通りも予測して、それぞれについてシミュレーションができていなければなりませんが、余裕がなくなると、ついつい自分たちに都合の良い展開だけを想定して検討を終了してしまい、本番で慌てることになります。

 

 

<できる社員でも、自分より目立つ者を 経営者は許さない>

 

I氏が有能な人物で、あったことは間違いないと思います。また、「踊れない」SMAPを、これだけのヒット商品かつロングセラー商品に育て、事務所に多大な利益をもたらした功労者であることも、疑いのないことです。

しかし、経営者とか上司というのは厄介なもので、稼いでくれる人間は重宝ではあるものの、それはあくまでも「自分の手のひらの上にいる限りでは」ということなのです。

手のひらからはみ出すようになると、いくら稼いでくる部下でも、疎ましくなるのです。

経営者・上司のほとんどは、常に「自分がいちばん上」でなければ、気が済まない人種なのです。

 

これも報道されているのを見聞きしただけで、事実かどうかは確認のしようがありませんが、I氏はSMAPに関する限り、事務所の決済を経ずに独断専行する傾向があったといいます。

I氏にしてみれば、それで上手くいっているのだから問題はないと考えていたのかも知れません。

しかし、経営者とか上司というのは、口では「自分で判断しろ」「何でも聞いてくるな、まず自分で考えろ」と言いながら、部下が本当に自分で考え、行動して結果を出すと、面白くないのです。難癖をつけたくなるのです。

 

I氏としては、折に触れて「自分はあなたの部下であり、決してあなたより前には出ません」ということを、折に触れてアピールしておくべきでした。

 

信長の性格を知っていた秀吉は、信長に猜疑心を持たれないことに、最大の注意を払ったといいます。

 

今の時代を生きるサラリーマンも、同じような心がけを忘れてはいけないということでしょうか。